大橋団地のカーシェアリングのメンバーに渋谷さんという70歳のおじさんがいます。
最初のミーティングにご参加いただいた際、奥様の病院への送迎に使いたいと自己紹介の時話されていました。
最初のミーティングの様子
https://www.japan-csa.org/blog/report/activity/2011/08/25/72/
奥で座っているのが渋谷さん
その後何度かミーティングを行ったのですが、渋谷さんは現れず、利用は全くされてませんでした。
そこで、渋谷さんの様子を伺い行くと、利用したいけど、遠慮してなかなか使えていないという事が分かりました。
また、タイミングが合わず会合に参加できておらず、その事も遠慮していまう要因になっていました。
そこで、まずは実際に車に乗っていただこうと思い、2週間くらい前に渋谷さんと一緒にドライブの約束を強引にしてしまいました。(笑)
朝8時30分に渋谷さんを迎えに行き、この地域のカーシェアリングの代表で鍵の管理者でもある中井さんに一緒に鍵を借りに行くところから始まりました。
「お久しぶりです…」
「あぁ、どうもどうも…え~と大内さん?」
「いえ、渋谷です。」
「あっ、失礼しました!」
と笑いながらアットホームな感じで会話が始まり、改めてご紹介を行えました。
その後は、集会所に掛けてある予約ノートを見に行きました。
8時から12時まで私が渋谷さんの分を予約していたので、それを見ながら説明をしました。
「あぁ、この日も空いてるんだ。この日、使いたいんだよな~」
そう呟きながら、中井さんから預かった鍵を使って車に乗り込みました。
車の中では、運転チェックシートに記入して頂き、
そしてダッシュボードの中に入れている長岡の学生達が作ってくれたメッセージ集を渋谷さんに紹介しました。
「ありがたいね~」
とまぶしい顔をしながら、その写真とメッセージを眺めていました。
さて、車のエンジンをかけて、走り出しました。
「車乗るの7か月ぶりだ~」
と言いながら、スイスイ運転されていました。
車の中で渋谷さんと色々と話をしていきました。
渋谷さんの人生は、つい先日までペーパードライバーだった私と違い、車人生だったことを知りました。
学校を卒業してからトラックの運転手をし、その後、タクシーの運転手、そしてバスの運転手をされていました。
「俺は話するのが苦手だから、車の運転でやってきたんだ」
車に乗り続けた渋谷さんの人生で、7ヶ月も車に乗らない事は、本当に大きなことだったようです。
体の一部のような「車」に久々に乗って渋谷さんは、本当にドライブを楽しんでいらっしゃいました。
開成地区のあたりまで少しドライブをした後ぐるっと回って、駐車場に戻ってきました。
その日の午後、誰も利用者がいなかったので、「いいかなぁ~?」と言いながら、結局17時まで予約を延長されました。
そして更に2日予約をされていました。
その後渋谷さんは被災した家からの荷物の運搬や奥様の病院への送迎などで頻繁に車を利用されるようになりました。
そんな様子を見ながら、大橋地区仮設代表の中井さんから、渋谷さんは脳内出血で倒れられた奥様の介護のため使われているので、気兼ねなく使っていただくためにも渋谷さんに管理者として鍵をお渡ししたらどうかという話がありました。
今大橋仮設の中には中井さんを含め3名の鍵の管理者の方がいらっしゃいます。
メンバーの方々は、その3名の管理者のいずれかの方に鍵を借りに行き、車を運転します。
鍵の管理者の方は、鍵をお渡しするという少しの手間がかかりますが(ここで会話が生まれるのですが)、鍵を借りに行く気兼ねが全くなくなります。
昨夜、その事を渋谷さんに伝えプリメーラの鍵を持っていくと、
「朝早くから病院に行ったりするので、鍵を持たせていただくと本当に助かります。私は年寄ですので、家にいることが多いですし気兼ねなく鍵を借りに来てください。本当にありがたいです。次会合があるときは必ず顔を出し、皆さんに直接お礼を申し上げたいです」
渋谷さんは鍵を眺めながら本当に嬉しそうに語ってくださいました。
つい2,3週間前まで全く利用されていない方とは思えない喜びようでした。
共同で車を利用するという事は、やはり抵抗がある方もいらっしゃいます。
しかし一度経験するとその使い勝手の良さを感じていただけます。
そして人間関係もそこから生まれていきます。
渋谷さんの喜ぶ顔を見ながら、このカーシェアリングの可能性を感じることができました。
渋谷さんとプリメーラの鍵
2011.11.03